住宅の軒裏を見上げると、穴が一定間隔で開いたボードや換気部材を目にする場合があります。
それらは住宅の小屋裏環境の悪化を防ぐために設置する軒裏換気(軒天換気)の部材です。
ただし、ここで気を付けたい点が、軒裏換気さえ行えば小屋裏環境を良好に維持できるわけではないところ。
断熱・気密性能が低いと、いくら小屋裏の換気量を増やしても小屋裏内の湿気や熱を排出し切れません。
このため軒裏換気は、躯体の高断熱・高気密化とのセットで行うことが基本です。
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軒裏換気は小屋裏の通気を確保するための手段
軒裏換気は、小屋裏換気を行うための手段の1つ。
軒裏の2ヵ所以上に換気口として有孔ボードや専用の換気部材を設置し、小屋裏の通気を確保します。
小屋裏は熱や湿気がこもりやすい場所です。
例えば、夏の小屋裏内は、強い日差しを受ける屋根から日射熱が侵入するせいで温度が60~70℃くらいまで上昇しますし、冬も暖房の効いた室内から湿気を含んだ暖かい空気が上がってきます。
小屋裏が高温になったり、湿気がこもったりすると、屋根の耐久性や住環境に悪影響が及ぶ恐れがあります。
そのため、軒裏換気などを設置し小屋裏内の通気を良くしてあげる必要があるのです。
小屋裏換気の目的は3つ
(1)室内の快適性向上
(2)小屋裏内での結露予防
(3)つらら、すがもれ対策
この3つが小屋裏換気を行う目的です。具体的にどういうことか、それぞれ見ていきましょう。
室内の快適性向上
先ほど、夏の小屋裏は強い日差しの影響で
60~70℃くらいまで温度が上がると書きました。
これだけ高温になると、天井に断熱材が敷き詰めてあっても室内に熱が伝わってしまい、室温まで上昇してしまいますし、冷房の効きも悪くなります。
軒裏換気などで小屋裏内の熱を屋外に排出すれば、小屋裏の温度上昇を抑えられます。
小屋裏内での結露予防
空気は暖かいと上へ、冷たいと下へ移動する性質があります。そのため、冬の室内の湿気を含んだ暖かい空気は天井のほうへと上がっていき、最後には小屋裏に辿りつきます。
このとき、軒裏換気が設置されていないと、湿気を含んだ暖かい空気は小屋裏にとどまることになり、結露の原因となります。冷え切った野地板や屋根垂木などに触れた際、含んでいた湿気が水滴として現れるのです。
この結露水が住宅の大敵。
水分の付着を繰り返すと木材は徐々に腐朽が進みます。木材や野地板の腐朽が進めば、当然ながら屋根の耐久性にも悪影響が及び、今度は雨漏りなどの障害が拡大する可能性もあります。
室内から結露の原因となる暖かく湿った空気が上がってきても、それを屋外に逃がす仕組みがあれば安心です。
ちなみに、この写真は結露水がびっしり付着した小屋裏の衣装ケース。
写っている虫の死骸は軒裏の有孔ボードの穴から侵入した可能性が高いです(札幌市の戸建住宅)。
つらら、すがもれ対策
積雪寒冷地の住宅では、
冬につららやすがもれが発生する場合があります。
いずれも小屋裏に上昇してきた室内の熱が屋根に伝わり、積もっていた雪が解けることで起こる現象です。
小屋裏換気によって小屋裏内の温度を外気温と同じくらいの低さに保っておけば、つららとすがもれの発生リスクは軽減できます。
ちなみに、すがもれとは屋根に積もった雪が日光や室内からの熱で解けて水となり、屋根材の隙間から室内に入ってきてしまう水漏れ現象です。
ただし、こういった障害も軒裏換気を設置すれば全く発生しなくなるというわけではありません。
住宅の断熱・気密性能が悪ければ、小屋裏換気をしっかりと行っていても室内から大量の湿気と暖気が上がってきてしまうためです。
高断熱・高気密住宅で、かつ十分な小屋裏換気を行っていれば、小屋組材の腐れやすがもれの発生リスクはかなり抑えられるでしょう。
付け加えると、躯体の高断熱・高気密化は夏場の小屋裏の高温対策にもなります。
軒裏換気は一番メジャーな小屋裏換気
続いて、小屋裏換気の種類の話です。
小屋裏換気には軒裏換気をはじめいくつか種類があります。
以下の図がその一覧です。
さて、この中でもっともメジャーな小屋裏換気はどれでしょうか。
長期固定金利住宅ローン【フラット35】を提供している住宅金融支援機構が2017(平成29)年度に行った全国調査によると、軒裏給排気、つまり軒裏換気が全体の41%を占めて最も多くなっています。
次点の軒裏給気・棟排気が13%。1位とは少し差が開いていますが、この併用ケースも多いです。
小屋裏換気が不要な「屋根断熱」を採用する住宅も38%ある。屋根断熱の住宅は、天井断熱の住宅と違って小屋裏が室内と同じ温熱環境となるため、小屋裏換気が不要。
地域別では、北海道は軒裏換気が全体の95%を占めており、東北も54%と過半数に到達。この理由は積雪寒冷地という地域柄、無落雪屋根を採用する場合が多いためと考えられます。
軒裏換気部材の種類と求められる性能は?
軒裏換気部材には、小屋裏に空気は入れるが、雨水や雪は入れないという難しい働きが求められます。
そんな軒裏換気部材の種類は大きく分けて、(1)有孔ボード、(2)専用換気部材の2つ。
有孔ボード
有孔ボードは、耐水・耐火性に優れたケイカル板(ケイ酸カルシウム板)などに空気が通る小さな穴が一定間隔に並んでいるシンプルな造りで、価格も安め。
ただ、シンプルな造りゆえ、強い風が吹くと雨や雪が入ってきたりするほか、虫も侵入しやすい弱点があります。
専用換気部材
その一方で、軒裏換気部材は雨・雪・虫などが入ってきにくい構造など有孔ボードにはない特徴を有している製品のほか、防火地域と準防火地域の戸建住宅に求められる準耐火構造及び防火構造に対応した製品もあります。
イーヴスベンツ18
形状もシンプルな正方形のものから、スリムでデザイン性に優れたものまで様々です。
また、専用の軒裏換気部材の中には、近年増えている“軒ゼロ住宅”に対応した軒ゼロタイプの製品もあります。
軒の出が短く見た目がスマートな軒ゼロ住宅。
軒ゼロタイプの軒裏換気部材は、通常の軒裏換気部材よりも細長い形状になっており、軒の出が短い住宅にも取り付けることが可能です。
軒裏換気部材はどのくらい設置する?
小屋裏換気は種類ごとに設置する数の最低基準が設けられています。
「小屋裏が換気不足にならないよう、このくらいの数は設置してくださいね」という基準です。
小屋裏換気の基準は、上記で示されているフラット35の技術基準が、日本で示されている唯一の基準とされています。
この基準によれば、軒裏換気(軒裏給排気)は、天井面積の1/250以上の有効開口面積が必要です。
例えば、天井面積が60㎡で、軒裏換気部材「イーヴスベンツ18」(有効開口面積174㎠/本、幅18mm×高さ30㎜×長さ1220mm)を使用する場合、基準の0.24㎡以上をクリアするには、最低でも14本、長さにして合計約17mと、軒裏ほぼ全周にイーヴスベンツを取りつける必要があります。
さて、この基準はどんな住宅でも当てはまるのでしょうか。
アメリカのツーバイフォー住宅に求められる小屋裏換気量を参考に制定したとされていますが、実は、研究者や技術者の間でも制定の経緯について確かなことは分かっていないといいます。
いずれにしても、ツーバイフォー住宅並みの断熱・気密性能があれば、この基準をクリアすることで十分な小屋裏換気量を得られるでしょうが、住宅性能がそこに到達しそうもない場合は、もっと換気量を増やす必要があるのです。
なぜなら、小屋裏の環境は屋外の天候や温度・湿度のほか、小屋裏に漏れる湿気量と熱に非常に強く影響されるからです。
分かりやすく言うと、断熱・気密性能が悪いと、小屋裏環境が悪化するということです。
小屋裏換気量は、この点を踏まえて考えることが大切です。
軒裏換気をはじめとする小屋裏換気は建築基準法で義務付けられているものではありませんが、【フラット35】の融資要件となっているほか、長期優良住宅の認定条件でもあります。快適な住環境や住宅の耐久性のことを考えると、やはり避けては通れません。
また、冒頭で軒裏換気は躯体の高断熱・高気密化とセットで、と書いたように、断熱・気密性能が高ければ軽視していいことにはなりません。
どれだけ断熱性が高くても天井からの熱の逃げはありますし、屋外の天候や湿度温度の影響も受けます。
繰り返しになりますが、小屋裏換気は住宅の高断熱・高気密化と並行して適切に行うことをおすすめします。